半人前主婦

帰りの遅い夫を待ちながら、今日も三歩進んで二歩下がる

魔法のような音たち

夏の日。お腹に手を乗せると、手を繋いでいる気分になる。
このまま昼寝しちゃおうか。

まだはっきりこれだ!という胎動は感じられないないけど、脈拍の違う心臓の音が、
自分の体から2つ聞こえてくる、気がする。
ドクドクドク、この大きくて遅い方の音がきっと私だ。
だとすれば、トクトクトク、小さくて早い方が君ってことか。生きてる。
1つの体の中で2つの心臓が動いているってのは、なんとも不思議で。
合わせたら目玉は今4つあるってことなのか?なんかそれは怖いな。

あれ、やっぱり動いているよね?トクトクじゃない音、ぽこぽこと泳いでいる音。

しかし、いつを胎動記念日にしたらいいのか?今日?いや、昨日も一昨日も感じてる。
もったいぶってるわけではないけど、母子手帳に記入する“初めて胎動を感じた日”は、空欄のまま、すでに数日が経ってしまった。
もっともっとボコボコ蹴られたい。

「あ、今動いてるかも?!」と、声をかけると夫は飛んでやってくる。
だけど、この小さなぽこぽこはまだ届かないらしく、焦れったい様子で、ずるいずるいと悔し顔。
私がソファに寝転がれば、今度は真剣な顔でお腹に耳をピタリと張り付け、目を閉じる。
しーんと静まり返った部屋にグルルル〜、ちょうどよく私のお腹の音が鳴り響き、
はっと目を見開いて、「今の?!」と合図を送ってくるけど、
そんなはずないじゃん、赤ちゃんはもっとかわいい音をさせるのよ。うふふ〜。

このとんちんかんなやり取りは毎晩のようにつづき、終いには私の心臓の音がドクドクとうるさいと言われるんだった。早く夫にも聞かせてあげたい。

ソファに寝転がった私から見えるこの小さな視界には、今幸せしかない。
小さくて不確かだけど、十分すぎる。誰かと比べることのできないものだと思う。

近頃、妙に幸せだ。“妙に”って例えも変だけど。じんわりのんびり時間が過ぎていく。
安定期ってのは身も心も安定するのかな。私が守っているはずの赤ちゃんに、逆に守られている感じがする。
ぽこぽこ。ぽこぽこ。今日も魚みたいにお腹の中を泳いでいるのかな。
あぁ、私も海にでも行きたいな~