半人前主婦

帰りの遅い夫を待ちながら、今日も三歩進んで二歩下がる

誕生とそれから

病院を一歩出ると冷え切った冬の空気とキラキラした日差しに、しかめっ面の我が子。やっと退院の日がきた。
ようこそこの世へ。ようこそ我が家へ。

私もしばらくぶりにシャバの空気を吸って、あぁ生きてるぞ、生き返ったぞと何故か思ったりした。病院内はいつだって一定の暖かい温度に保たれていて、異空間だったように思う。

実家に着くとさっそくオムツ替え、そしてまだ慣れないおっぱいをせがまれた。
始まった!授乳とオムツ替えをひたすら繰り返す毎日が。

看護婦さんから「母乳の悩みは先が長いから、出ない人はつらいのよ」と聞かされ、
その点あなたは無問題!のお墨付きをもらった。ありがたいことに母乳の出はすこぶるいい、絶好調だそう。
完母だと預けられないと聞くし、なんとなーく母乳とミルクの混合でいいだろうと考えていたのだけど、ミルクをあげる隙なくお乳は作られてくもんで、どんどん飲んでもらわなくてはならない。入院中こそたまにあげていたミルクの出番は必然となくなった。

また熱を持ってぱんぱんに膨らんだおっぱいがズキズキ痛み出した。
そんな頃合いを見計らってか、口をパクパクし始め、仏頂面でおっぱいに食らいつく我が子。
空っぽになっていくおっぱい。
お腹が満たされた様子の我が子。

次第に私の痛みも和らぎ、我が子はすやすやと眠り始める。
あぁ、私たち、離れられない運命なんだ。
この1ヶ月、ほぼ24時間、片時も離れることなく、隣に、腕の中にいる。
でも、考えてみれば、生まれる前、妊娠中はもっと近く、一心同体のようだったわけで。

そっか、生まれたあとは、離れてく一方なんだった。

やっとこの手に抱けたのに、会えたのに、なんだか胸が締め付けられる思い。

本当は私たち、離れていく運命なんだ。
いっそのこと、どこまでも遠くへ遠くへ、行っておくれ。まだ先のことをこれでもかって大袈裟にセンチメンタルに、抱えて愛おしむ。


まぁそれにしても眠い。

このかわいい寝顔で寝不足の疲れもぶっ飛ぶぜってほど若くないから、家族にイライラをぶつけて過ごしている。これぞ里帰りの特権か。
奇跡の出産を期に改めて母親に感謝!と涙しつつも、偉大なる母を前に、母になったばかりのひよっこな私は、いとも簡単に子どもに戻ってしまうんだった。いつまでたっても子ども、この関係は一生変わらないだろう。母業は一生つづくってことか。怖ろしや。
おかげさまで、迷惑な話だけど、産後うつみたいな気分にならずに育児がやれている。

それでも、きつい!さむい!と地団駄を踏みたくなる夜もある。
「赤ちゃんが寝ていても2〜3時間おきに起こして、ちゃんとおっぱいあげましょう」「母乳は消化がいいから、お腹が空くのよ」と、病院でしきりに言われたけど、
いやいや〜お腹が空いたら自ら起きて泣いてせがむだろうよ。まず眠くて寝てるんだろ、寝かしてやろうよ。
と、あと30分だけ!のアラームをかけ直し、布団に潜るわけで。
結局30分経ったって、寒さも眠気もさして変わらないまま、今度こそ腹をくくっておっぱいを出すんだった。

兎にも角にも授乳とオムツ替えを繰り返して繰り返して、夜は明け、朝が来て、また夜になる。
それだけのように思えても、日に日にほっぺたは膨らみ、機嫌悪く真っ赤な顔をしてみせたり、はたまた大人顔負けの大きなオナラをしてくれたり、ぐんぐんと成長してるみたいだよ、我が子。うれしいな。
親子仲良く、どうぞ私を一人前の母にしておくれ。