半人前主婦

帰りの遅い夫を待ちながら、今日も三歩進んで二歩下がる

笑い合う家には福来る?

「私テレビ観ないんですよー」
って女が嫌いだって、芸人さんたちが口を揃えて言うてた。そらそうだ、テレビ出てる人だもん。商売上がったりだろう。で、まさしく私もそのタイプで。

友達から聞かれる昨日のアレ観た?
いいえ。
今回のドラマ何観てる?
何も。
弾まない会話には慣れてる。

出勤中につけておく車のテレビだけが、私がリアルタイムで観るテレビ番組だ。モーニングショーだ。
それでもちょっと知ったようなフリができるのは、長年のネットサーフィンで培った波乗り技術で、ヤフーのトップニュースやYouTubeのオモシロ動画などを駆使し、波から波へといいとこ取りしているからだ。それで十分こと足りてると思ってた。

別に忙しいわけでも、何でもない。
夫の帰りが遅すぎるなら、無音の部屋で過ごすより、いっそテレビでもつければいいのにと、自分でも思うけど、ざっくり言えばテレビのリモコンに触る習慣がない。あと、極端に貞子が怖い。そんで、あの小さなリモコンが部屋で行方不明。そもそも実家の自分の部屋にテレビはなかったし、居間のテレビのリモコンは親父の宝物だったから。

毛嫌いしてるわけじゃないけど、思春期ヘンテコな番組でごった返す中すくすくと育ったせいか、内心近頃のテレビは面白くないぜー!みたいな中年パンクロッカー装い、こっそり中指立ててたに違いはない。
早とちりか?のハテナすら、ネットはすこぶる楽しいし億劫になって再度検証することも早々に諦めた。

しかし、先日ひょんな話題から友人に、ごちゃごちゃ言わずにたまには夫婦一緒にテレビ観た方がいいよー!一緒に笑うといいよー!とバッサリ言われた。

日頃の生活を思い返すと、人並みにテレビを観る夫が、残業からがんばって帰ってきて、もうずいぶん遅い時間にふわっとつけた番組で、1日の苦労は1日にて足れりとケラケラ笑ってる。その少し離れた所で、私はねちねち波乗り。
突然、今のやばくない?みたいなことをフッと聞かれるんだけど、ごめん観てなかったみたいな、まぁ寒い返答しかできなくって、妙にシラけるんだった。
しかも、見逃したとなると気になるし、夫がその後必死に笑いをこらえながら伝えてくる説明はとにかく下手だし、なんかもう悔しくて、ちょっと音量うるさくない?とか言い出す始末。

しーーーん。
気づくといつの間にかテレビは消されてて、夫風呂へ消える。無音の部屋で独りすまんってなる。

うーん、そうだなぁー
ごちゃごちゃうるさい私だけど、たまには友人のアドバイスを素直に聞こう!
ようやく、そよ風気持ちいい波乗りをやめ、夫がケラケラよく笑う「アメトーク」を、いざ!テレビの目の前で、夫のぴったり隣で、更には正座で、真剣に観てみたわけだ。
コロコロなんちゃらのナダルさんって人の回だった。

結果、まぁそれは予想だにしない面白さで、ケラケラどころか、ゲホゲホ言うまで笑い転げ、号泣した。激しく畳を叩き、泣き崩れた。
見事同じ瞬間で昇天し、1時間の番組はあっという間に終わりを迎えた。興奮冷めやらぬまま、ベットに転がり込むも尚、笑いは止まらず。
あぁ、くだらない。なんてくだらないだ。暗い部屋で思い出し笑いともらい笑いをひとしきり繰り返し、コロコロ笑い疲れてぐっすり寝た。

あからさまに役に立つものにしか興味をもてない大人は、子どもからやりなおすべきである。と、どこかで聞いた言葉が頭に浮かんだ。
私は波乗りであからさまにいいとこ取りをしてるつもりだったけど、実は肝心のいいとこは何もすくえてなかったみたいだ。ハイタッチスレスレの興奮をふたりで手に取り、分かち合える!なんて気持ちいいんだ。快感。

そう、夫はよく笑う。しょーもないことで笑う。アイーンって言ったくらいで笑うから、たまにイラッとする。
たぶん全身笑いのツボだらけなのだ。だから、きっと眠る前に少しだけとつけたテレビで、今日の疲れを効果的なセルフマッサージで癒しているのだろう。それに比べて、私の凝り固まった厄介な笑いのツボはそう簡単にはほぐれてはくれないのだが。

そんな自分だけ気持ちいいツボ探しはやめて、これからはケラケラ声が聞こえたら、なるべく一緒にケラケラ気持ちよくなりたい。あわよくばあの昇天を一緒に味わいたい。まずはパソコンを閉じて、おとなしく隣に座ることから。
そのうちに全身ツボだらけになって、ふたりでアイーンって笑い合えたら最高だな。