半人前主婦

帰りの遅い夫を待ちながら、今日も三歩進んで二歩下がる

妊婦!すべての欲望と戦う

何を隠そう、私は酒も男もあれもこれも好きだ。
それに、寿司や牡蠣やレアのステーキやナチュラルチーズなど、当たりやすい食べ物が好きだ。
飲み物は基本紅茶か緑茶で、コーヒーも好き。スパイシーなカレーは1日1回は食べたい。

これ全部NGね!妊婦だもん、当たり前でしょ?

わかっていたけど、この風当たりが思ってた以上に辛かった。いや、向こうから当たってくるわけじゃない。むしろ私がガンガン当たりにいってる感じか。
どいつもこいつも、寿司屋もカフェも気に入らねぇ、みたいな気分になった。

嬉しい時、楽しい時、疲れた時、泣きたい時、私は酒をあおり、それら好きなものを食べ、コーヒーを飲み、男の子を眺めた。それなのに、その全部の気持ちをノンアルコールでおとなしく過ごせとは、なんてこった!早くも逃げ出したくなった。

そして、自分の準備不足を呪った。
いつするかわからない妊娠だからこそ、いつしてもいいように、やめておくか、やめられるようにしておくか、やめる前に思う存分やりまくるか、しておくべきだった。
いくらしたって準備万端とは言えなくても、私は圧倒的に不足していて、子どものようにダメと言われれば言われるほど、すべてを欲しがった。不機嫌になり、自己嫌悪になり、夢にまで出てきた。

妊活中あんなにはりきって飲んでいたルイボスティーが一瞬で味気なくなり、
生牡蠣で日本酒、カフェで一服、ウェルダンのステーキならむしろ食べたくない。という、有り様。

私はおかしいのか?妊婦失格なのか?

妊娠したら、一切合切やめると言うか、自然と欲しなくなるものだと信じていた。
ホルモンがそうさせてくれるのだとばかりに。

すっかり自信をなくしおろおろとうなだれる私に、すでにママをしている友達は豪快に笑い、気にしすぎもよくないよと、その気持ちを優しく許してくれた。逆に未経験の友達は、正しく厳しかったりもした。

誰かを非難するつもりでも、自分を甘やかすつもりでもないけど、この時期の出来事で、私なりに感じたことがある。人の気持ちって、いくら想っても全然わかってあげられないのかもしれないということ。
まったく同じ体験や状況は経験できないけど、同じ立場になってみないとわからないことってやっぱりある。
当たり前なのかもしれないけど、妊娠してみてわかったことが確かにあって、それは少し前まで私がやんわり想像していたことと、まったく違うわけではないけど、もっとずっとなんていうか濃くて深かった。

恋をしてみて、失恋してみて、働いてみて、結婚してみて、病気になってみて、何かを始めてみて、わかることがあるし、その立場になってみなければ、ほとんどわからないに等しいのかもしれない。

私も何もわかっていなかったから、想像力が足りなかったから、早くに妊娠しママになった友達を当時傷つけたであろう自分の言動が、いくつも頭に浮かび上がった。
それは、妊娠以外のことでも浮かんできたのだから、同じ立場になったことがあるにもかかわらず、まったく同じ経験をしてはいないからなのか、やはり想像力が足りないからなのか、たぶん傷つけてしまったのだし、何もわかっていなかったように思う。
今からでも謝りたい気持ちだ。

正しいアドバイスはもちろん大切だけど、時として嬉しいアドバイスや優しいアドバイスに、どれだけ救われるか、大げさだけど、この時とても染みたのだ。
がんばろうと元気が出たのは、私もだったよ、大変だよね、と言ってくれた、嬉しいアドバイスだったから。

こんなことを言い出したら、もう何も言えなくなっちゃうけど、よっぽど伝えたいことがない限り、アドバイスは相手が嬉しいものを贈りたいと思った。
何が正しいかは、本人がほんとは一番わかっていると思うから。


そんなわけで、朝まで飲み歩くなんて、もうしばらくできないのだろうな。
インスタに上がる、BBQ&BEERな写真に震えながら、しみじみ思う。季節は巡り、夏が来る。
当たり前だけど、みんなみんな変わっていくのだ。

立場が変わってしまう友達がいることに、どうしようもない寂しさが募る夜もあるけど、今までいっしょだった数々の共通点を胸に、今までより思い合えるように、なれたらいい。
もうなっていくしかないし、なっていけないかもしれないことを、今はあんまり考えたくない。

なんだか大真面目に書いてしまったが、要するに私は妊婦になったって、酒もあれもこれも、悲しいかな、全部したかった。飛行機に夜行バスに乗って、どこでも行きたかった。

母性なんて、妊娠しただけじゃ、空からキラキラ降って来やしないのじゃ。
いや、母性の塊みたいになっていくキラキラ妊婦さんを何人も見てきたから、自分もそうなるとばかり信じていたし、だからそもそも自分には母親になる素質がないのではと、心底ガッカリしたのだ。
え!なれてないよ、私って。これ、結構ショックだった。泣いたし。

そして、これくらいのことで、自分がこんなに過敏にいちいち反応するとも思ってもみなかったので、この先も初めてのことばかり、わからないことだらけなわけで、
うーむ、道はたいそう険しいと思われる。

今回の準備不足、いい勉強になっただろう。
ぼちぼち引き上げて、次にやってくる試練はもう少し上手いことやってのけたいものだなぁと。

しかし、ビールのない夏なんて...って、ほらもう、ね!!!