パチパチパチ
短い腕に小さな手。大きなお腹にまぁるい頬っぺた。髪の毛も、歯茎も、足の裏も、どこを触っても気持ちいい。そして、この時期の体温や匂いは特別な気がする。できるだけ、触れて、吸って、全身に染み込ませたい。
8ヶ月を迎えた娘は赤ちゃんからどんどん子どもっぽくなってきた。ついこの間まで、ゴロンと天井を見上げてるばかりだったのに、もう仰向けなんて退屈だわと、言わんばかりに、寝かせた瞬間飛び上がる。まるで起き上がり小法師のよう。
体のいろんなところを使って、自分の意思で、動こうとする。前へ横へ上へ。
我が家の狭い家の中を毎日冒険気分か。ドアを開けておいても決して出なかった廊下を、のそのそとひとりで進む、勇敢な後ろ姿。
掃除しなければいけないところが増えてしまった。
近頃は覚えたばかりの拍手を繰り返し披露してくれる。少し前までは両手が上手く合わさらず、ブンブン空振りばっかだったけど、もうちゃんと胸の前で右手と左手はパチッとぶつかり、小さな弾けた音を鳴らす。
パチパチパチ。
ワンワンとうーたんが歌い出せば、パチパチパチ。ごはんの準備ができたら、パチパチパチ。
まだ下手くそなハイハイで顔面からダイブした自分にパチパチパチ。
台所で味噌汁をこぼし舌打ちをした私へパチパチパチ。
疲れた顔して帰宅した夫へパチパチパチ。
こんな調子でなんでも受け入れてくれるし、なんでもOKなのだ。
ボールをちゃんと相手の方に飛ばせなくても、つかまり立ちからドスンと尻もちついてもOK。
私が寝坊しても、ちょっとくらいイライラしていても、深いため息を吐いてもOK。いいんだ、そんなこと。
許してくれる。忘れてくれる。エールを送ってくれる。
何が起こっても、次には嬉しそうにしてくれるので、ついにこちらも笑ってしまう。いや、そこ怒るところだろって。
大人の複雑な感情なんて、つまらんものだなぁとしみじみ思ってしまう。
あー毎日あなたのように笑っていたい。1分前に起こした小さな失敗なんて、忘れてさ。
できるようになりかけているいろんなこと、その調子で、きっともうすぐにできるようになるだろう。その時は、私があなたへたくさんのパチパチパチを贈るよ。