半人前主婦

帰りの遅い夫を待ちながら、今日も三歩進んで二歩下がる

鈴木晴香さん、「夜にあやまってくれ」より備忘録。

 時間を置いて、再び読んだときの変化が楽しみ。どストライクなタイトルのインパクトもさることながら、中毒性のある歌ばかり。


君の手の甲にほくろがあるでしょうそれは私が飛び込んだ痕


たまに鳴る電話の糸は緩くなり同時に話して同時に黙る


地下鉄のホームに過去の雨が降るコンクリートの呼吸の長さ


自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏


もう少し早く出会っているような世界はどこにもない世界より


レコードに針が落ちるのを待つような痛みと知れば痛みがほしい


お祈りの時は瞼を閉じながら瞼の色を確かめていた


神様は全てを知っていることを知って怖くはないのだろうか


調律をなくした朝はその夜が確かにあったことを教える


一日が朝で終わる日 君といた時間すべてに落ちていた月


転がったペットボトルの蓋ほどの偶然の行き先のその先


氷より冷たい水で洗う顔うまれる前は死んでいたのか


動き出す窓から見えるどうしようもなくどうしようもない君の顔


悲しいと言ってしまえばそれまでの夜なら夜にあやまってくれ


路線沿い歩けば遠い足音に日付を持たない思い出がある



黙ることが答えることになる夜のコインパーキングの地平線


Tシャツに濡れる背骨に触れながら君の人間以前を思う


何が悲しいってこれを初恋と呼んだら君が笑うってこと