「賢い女は男を立てる」読了
やたら鼻につくタイトルだなぁと思った。
その頃我が家は行き詰まっていて、本書の言葉を借りるなら、「自分自身も自分の結婚も認めることができなくなっていた。」今思えば自尊心をすっぽりとなくしていたのだと思う。
どうにもうまくいかない夫や自分、家のことをネットでちくちくとググっては嘆き、ググっては落ち込んでいた。そんな厄介者に、親切なGoogleさんがあなたにオススメの本!って。もう!気が利き過ぎる世の中だ。お手上げです。
いんちき臭いとしかめっ面でレビューをざっと読み終えれば、もう迷わず購入ボタンをポチッていた。切実。
しかし、手元に届いた頃、夫の使い込みが発覚。時既に遅かったわけで。
ピンクの可愛らしい本を手に、いっときでもこんな本読もうとした自分が情けないし恥ずかしいし悔しいし、読むだけムダだわ!と押入れの奥にピシャリと放り投げたのだった。
何よ「愛されるルール」って。いちいち鼻につく。
それから時は経ち、メルカリに出品できるものはないかと、やれ整理していると、出てきた出てきた、ピンクの可愛らしいこいつ。
あーこんなの買ったわねぇ、あの頃のどこまでも追い込まれていた精神状態を思い出し、あの頃ってもほんの少し前の話なのに、なんだか懐かしくパラパラとめくってみることに。
あらら〜
自分の表せない気持ちやその理由、薄々気づいていた私が犯していた夫への非道な言動の数々が、見事なまでにズバズバと書き出され、思い当たる節があり過ぎた。胸が痛い。
恐れ入りましたわけで、反省の気持ちで、その晩一気に読んだ。
簡単に言えば、いつまでも夫婦いちゃいちゃ暮らすには夫の母親になっちゃイカンってこと。夫をコントロールしようとしないこと。一歩引くこと。ごもっとも!
私はあなたの母親じゃないとはよく聞く台詞だ。逆に僕は君の父親じゃないとはあまり聞かない台詞のように思う。言われたこともない。
父親ってのは、背中をいつか越えたいとか、常に越えたい存在で、誰にとっても頼もしい象徴なのかも知れない。
母親ってそんなに煙たがられる存在なのか?!は置いておいて、男の人は君の父親のように、いや、君の父親を越えるような頼もしい男になりたいのかも知れない。
話はさかのぼって、元々なんでも夫にやってもらう方だった。恋人同士だった頃は、ほんと何にもしないわねとまわりから小言を言われるほど。ニコニコしていれば、自然と夫はなんでもしてくれた。
彼が作るちょっと変な料理も、めっちゃ遠回りだったじゃんってな目的地への道順も、譲り過ぎていつになっても来ない順番も、こんな人もいるんだなと妙に感心し、そのズレとペースは心地よい刺激だったりもした。自分にないものに惹かれる、恋の始まりとしてはオーソドックス過ぎるほど、私はそこに惹かれたはずだった。
なのになのに、それなのに、何故か結婚してからなんでもやるようになり、すぐに私がやった方がいいと思うようになった。
やれる人がやる、これは確かに理想だしベストだと思う。帰りの遅い夫だから私がやらなくては!とも思っている。
私にできることはなんでもしてあげたいと思ってのことだったが、気づけば夫のできることはたいてい私もできるし、私がした方が早いし効率もいいし上手くいくと思うようになっていた。
反射的で喜怒哀楽の忙しい私とは対照的に、マイペースでおおらかな夫。
一緒に暮らすようになって彼のペースに合わせては目的地にたどり着けやしないと、自らハンドルを握り、道なき道を、外の景色を見ることもなく、グングンと走り去って行った。
やっと辿り着いたと思えた場所は不安いっぱいなへき地で、助手席に乗っていたはずの夫は道の駅でソフトクリームでも食べているのだろうか?何故か私、ひとりぼっちだった。途端に怖くなった。
しまった!
気づけば私はすべてに責任を負わなければならないところにひとり暴走して来てしまったのだ。
毎月の支払い、家計のやりくり、急な出費の手配、保険の見直し、マイホームの夢、将来のこと、子供のこと、週末の予定、旅行の予定、町内の行事、いちいち細か過ぎる用事、巻き込まれている友人夫婦の揉め事、お互いの親戚との付き合いや両親へのプレゼント、etc...
それらを私は面倒なこととひとくくりにし、こなそうとしていた。失礼な話だが。
当たり前だけど、ヘロヘロに疲れた。あえなくタイヤはパンクした。
夫は常々言っていた。そんなに無理しなくたっていいんじゃない。ふたりとも初めての結婚で初めてのことばかりだし、上手くいかないのは仕方ないよ。それより今日のお昼は何にする?ってな具合で。
何もしない人の言う台詞か!と思っていた。それに時間ばかり過ぎて、私たちそんなに若くないじゃないかとも。闇雲にどれかひとつでも早急にケリをつけたかった。
しかし、
「家庭では必ずしも有意義な成果を上げる必要はない」らしい。
まして猛スピードで成果を上げようだなんて、これじゃまるで仕事だ。家の中まで効率性を重視した業務のようじゃ、色気も味気もない。昼間も働ているわけで、完全なる過労だ。
何事も過程が楽しくて、成果はオマケみたいなものだった日々を振り返る。時間はかかったけど、結構うまいことやって来たこともある。
何より無意味でくだらないことだけで、愛だの恋だのしてきた。
テレビドラマはいつだってドジでマヌケな主人公が繰り広げる、アホでおバカなエピソードがふんだんに盛り込まれているから面白い。
ハプニングが起きないように先回りし過ぎるのは、その後のドラマチックなドラマを見逃してしまうことにもなる。そもそもハプニングが起こるとも限らない。なんなら先回りしてハプニングを待ちぼうけて、妙な冷や汗をかいても風邪をひくだけ。
あれ?我が家のドラマ、どんどん面白くなくなってない?次週が全然楽しみじゃない。このままじゃ、打ち切りになっちゃう。
ポカーンと口を開き不安いっぱいなへき地で心細くなった途端、頼りなるのは結局夫なのだと気づかされた。
あぁ、ハプニングに立ち向かう夫の勇姿をもう一度見たいと願った。きっと私とは違う、ちょっと可笑しな方法を使うかもしれないけれど。
私がやった方が上手くいくと思っていたことが、上手くいかなかった。
今はそれだけが事実。そう認めたら、なんだか自然とハンドルを握る手を緩めることができた。思っていたよりも簡単に。
あなたにハンドルは任せるわ、外の景色でも眺めていたいの。と、優雅にはいかないけれど、一緒にソフトクリーム舐めながら、地図を開いて、あちこち指を差し合いたい。目的地は変わったっていい。ちょっとかさばる土産話のにひとつやふたつ、諸先輩方に持ち帰って笑ってもらおう。
それからは本書に書かれていることをなるべくそのまま実践するようにしている。自分でしゃしゃり出て考え出さないように。
そして、しないことが増えると、余白はすぐにできた。余白ができると献立作りも一層楽しい。
もちろんまだしくじるし、しゃしゃり出たくなるし、出てしまうのだけれども、気づいたら、謝り、譲り、整える。
自分にもまだ成長する余地があるのかも知れないと思えたら、単純なもので自尊心も不思議と取り戻して来た。
夫に対する見方はパッと変わったし、夫自身もサッと変わったこともあり、それはイコールで私も少し変われたからなんだと思う。相乗効果で、我が家はふたりして機嫌がいい日がつづいている。
そんなわけで、私のひとり劇が終わるのをまったりと待っていてくれた夫のおおらかさに、結局救われる形になった。やっぱりそこに惹かれたんだった。
夫は何事もなかったかのように、運転席へ座るとのんびり発進した。前へ。
サレンダード・ワイフ 賢い女は男を立てる (知的生きかた文庫―わたしの時間シリーズ)
- 作者: ローラドイル,Laura Doyle,中山庸子
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2007/02
- メディア: 文庫
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